毎年、数百人の新卒を採用しておりますが、毎年数名程度、年末12月頃から2月頃にかけて、「卒業出来なさそうです…どうしたらよいでしょう…。」「単位を落として留年してしまいそうです…。」という電話を受けます。
これは採用担当者としても非常に恐れていることで、あって欲しくないことのNo.1に入ってくる事象となります。そして、企業側からのそんな意見はさておき、何よりもみなさま(学生)自身としてどうしたら良いの!?と焦りに焦っていることと思います。では、このような場合どの様にしたらよいか、いち人事としての見解を後述していきます。
※もちろん企業によって対応は異なります。あくまで一例となります。
そもそも、卒業が出来ない場合の内定取り消しの根拠は?
たかだか、半年、1年くらい入社を待ってくれてのいいじゃないか?と思われている方に、そもそもなぜ、学校が卒業出来なかったら内定取り消しなのかというところについての企業側としての根拠を示しておきたいと思います。
それは、特定のタイミングまでに大学・大学院を修了(学士・修士号を取得)した上で、企業に入社するという約束ごとが存在しているからです。そんな約束した覚えはない、という方もいるかもしれませんが、企業としては幾つかの場面、場面でしっかり確認をしています。
募集要項での確認
企業の採用ページにおける募集要項・応募要件等にて“〇〇年〇〇月卒業予定・修了予定“と記載されており、その前提で選考が進んでいるからです。そこに応募している以上はその募集要項・応募要件に当てはまっており、ESなり履歴書にも学歴をその通りに書いているはずです。
面接を通しての確認
企業によっては面接において確認事項の一つとして、書類に加えて、口頭での確認もとっています。そのようなケースでは、例えば最終面接等の終盤のタイミングで、「〇〇年〇月に卒業予定で間違いありませんか?」等の確認があります。
内定承諾書での確認
内定承諾書を書いていたとしたら、そこには、ほぼ間違いなく内定取り消しに該当するケースが記載されているのではないかと考えます。
具体的には、
“履歴書等採用に当たって提出した書類に虚偽があったとき”
内定取り消しとなっても異議を唱えません。
等が文言として存在していると思います。“卒業出来ない”というのは、ひとつめの文言にもあたりますし、虚偽とまでは言いませんが、履歴書で“〇〇年〇月卒業予定(見込み)”と書いていたものと齟齬も出てきます。
卒業出来ない…となったらどうしたらよい?
まずは、大学(就職課・キャリアセンター・教授等)に相談
想定される会社からの質問に対してある程度答えられるようにしっかりと準備をしておくことが必要です。
また、最後まで卒業をあきらめずに、「既に就職も決まっており、何としても卒業したい、そのために何が出来るか」ということを真摯に相談する。それしか道は残されていません。例えば、出席が足りずに単位を落としそうなのであれば、何らかのレポートを追加で書くことで何とか認めてもらえないか等です。
・就職課、キャリアセンターに相談したのか?教授に相談したのか?
・卒業出来るとしたら、最短でいつになるのか?
並行して、速やかに企業に相談
ある程度の規模の企業においては毎年のように学生から「卒業出来ないかもしれません」という連絡を受けているはずです。そのため、企業側として、回答はある程度決まったものがありますし、学生側(あなた)もある程度決まったことを企業から聞かれる、確認されることと考えます。例えば、以下のようなことです。
・本当に卒業出来ないのか?いつ、正式に卒業出来ないと決まるのか?
・なぜ卒業出来ないのか?
・就職課、キャリアセンターに相談したのか?教授に相談したのか?
・卒業出来るとしたら最短でいつになるのか?
・次の学期で確実に卒業出来るのか?
・本当にどうにもならないのか?
・これからどうするつもりか?
・これからどうしたいと思っているのか?
・親にはもう話したのか?
等々、これらを繰り返し確認されることと思います。そのため後述の通り並行して大学への相談、確認も必要不可欠です。また、入社して働きたい、という“思い”もあわせて伝えておいて損はありません。
卒業出来ない…内定取り消しとなるケース
本当に卒業出来ない、これが決まった時、内定取り消しとなるかどうかで大きい要素をしめるのは、会社から確認される、“なぜ卒業出来ないのか”この理由が非常に大きくかかわってきます。
・出席日数が足りずに単位を落とした。
・論文が通らず、卒業が出来なくなった。
・研究に時間が足りず、論文を書き終えることが出来ない。
等々“自身”に原因があるケースだと認められない可能性が高いと考えます。
卒業出来ない…内定取り消しを免れることがありうるケース
やむにやまれぬ事情で当初の卒業予定時期に卒業が出来ず入社が出来ない。例えば、
・一定期間の治療を要する病にかかり、卒業が出来なくなってしまった
等、やむを得ないケース、会社として勘案する余地のある事情があれば、入社時期の変更を認めるケースがあります。
実際、人事として内定後に病気にかかり卒業出来なくなってしまった学生の入社時期を変更したことはあります。
(但し、これらの例にあげたケースは、健康状態が会社に勤務し、業務に従事するにあたって重大な支障がないと判断されることが前提となりますし、すべての会社が勘案し、入社時期を調整してくれるとは限りません。)
卒業出来ない…なんとしてもその企業に入りたい!出来ることは?
さて…そもそもどんな理由であれ、前述のような余程の止むを得ない理由があれば企業側として勘案する余地はまだあるかもしれませんが、そんなに余程の止むを得ない理由もないと考えます。
では、そのような場合、内定取り消しを免れるためにはどのようにするべきかを以下、いち人事の見解をご紹介します。
いち人事としてこれまで、事象として同じ単位が取りきれず卒業出来なかった、という案件で一方は入社遅れを認めて、一方は内定を取り消した(辞退取り扱い)ケースの双方があります。これまで何件もあった「卒業出来ません」というケースに対してそれら判断の別れ目となったポイントは以下です。
その① まずは速やかに相談
前述の通り、まずマストなのは速やかに相談をすることです。時間があけばあくほど、企業側はその知らせを聞いたときに「なんでもっと早くに相談してくれなかったの?」と考えますし、感じます。
入社遅れを認めたケース
早いケースでは卒業が出来ないことが発覚した当日・翌日には連絡をくれていました。遅くとも卒業が出来なさそうであるということがわかってから1週間以内程度の連絡がほとんどでした。これも、しっかりと大学でキャリアセンタへの相談、教授への相談、親との相談等々を経て状況をしっかりと明らかにした上での連絡であったため1週間たってしまいましたという理解がしうる日程間でした。
内定取り消しとしたケース
一方で内定を取り消しとしたケースでは、卒業が出来ないということが発覚してから1ヶ月も2ヶ月も過ぎてからというケースが殆どでした。
企業側として、そこまでひっぱった理由が全く不明であり、中には「言い出しづらかった」なんて正直な意見を聞くこともありますが、つまり…企業からすると入社してから先が思いやられると思ってしまうということにつきます。
「bad news first」なんて言葉もありますが、悪い報告は直ぐにするべきです。これが出来ないということは会社に入ってからの先がとても思いやられる…と会社側は感じることとなります。
その② しっかりとお詫びを述べる
兎に角、企業に迷惑をかけた点、そしてそのような事態に陥ってしまった自身の不足を兎に角平身低頭、ひたすらお詫びをしましょう。
お詫びが相手(会社側)に伝わるかどうかというのも大切なポイントです。もちろん、卒業が出来なくて一番困るのは学生(みなさん)自身と考えますが、周囲へも大きな影響を与えているということをしっかりと認識し、謝罪の気持ちをもつことが大切です。
入社遅れを認めたケース
入社遅れを認めるようなケースでは、多くの内定者が開口一番「このようなことになってしまい、大変申し訳ありません。お許しいただけるのであれば直接訪問させていただき、説明・お詫びをさせて頂きたいです。」と誠心誠意伝えてきてくれました。
内定取り消しとしたケース
「すいません…卒業が出来なくなってしまいました。」という程度で、どこまで一体申し訳なく思っているのかが伝わってこないことが殆どでした。
そして対応が受け身がちであると感じます。企業側から話を投げかけないと進展して行かないようなやりとりになると、企業側としては「この内定者はあまり会社に入りたいという気持ちはないんだな。」と受け止めます。
その③ 原因と対策を明確にする
一体何が原因で卒業出来なくなってしまったのかを明確に説明できるようにすることも大切です。そして、それを踏まえて確実に次のタイミングでは卒業が出来るという保証を会社に伝えることは、入社を待ってもらうにあたって必要不可欠ともなります。
入社遅れを認めたケース
「足りなかった単位は2単位分…確認漏れで必須クラスをひとつ取得がもれていた、確認をしたつもりだったがもれていました…今後は確認を徹底したい。そして、間違いなく卒業が出来るよう、選択できる複数の授業をとって、次の卒業時期では卒業を確実にする。」なんて話ですと、とても説得力があり、今度こそ間違いなく卒業ができるだろうと人事としてもその内定者のことを信じることが出来ますし、前述から総合して誠心誠意の対応であれば、待ってみるか、という気持ちにもなります。
内定を取り消したケース
「卒論の内容が難しく上手く進められなかった…。ひとりで悩んでしまい、上手く手をつけられず…。しっかり卒業できるように相談をしながら進めていきたい。」なんて発言ですと企業側としては全く安心が出来ません。本当に卒業出来るの?という不安が払拭できないこととなります。
その④ やはり、その企業にどうしても入りたい!という気持ちを熱く伝える
そして、忘れてはならないのはこちらです。卒業出来ない状況に陥ってこのようなことを言うのは憚られるかもしれませんが、伝えないことには始まりません。
入社遅れを認めたケース
「身から出た錆ではありますが、どうしても御社に入りたいと強く思っています。許されない失敗だとも思っていますが、なんとか入社を待っていただけませんでしょうか。」と…熱く、どうしても入りたいという気持ちを強く伝える必要があります。そしてこれは企業側から聞かれる前に自分から発信していくことが望ましいです。
内定を取り消したケース
言葉というよりも、”どうしても入りたい”という気持ちが伝わってこない場合は人事としても、運用を曲げてまで、イレギュラーな対応を行おうとは思わないと考えます。
さいごに
さんざん長々と書きましたが、最終結論はその企業次第となります。大学院が卒業出来ずとも学卒で入社を許してくれたり、大学が卒業出来ずとも卒業まで時期をずらしてくれたり等相談によっては融通を利かせてくれるケースはあります。一方で、企業によっては一律不可としている企業もあります。こればかりは企業によるところですので、「卒業出来なさそう…」となった時には、企業に相談、大学(院)に相談を速やかに行うことが大切です。