妻が妊娠、そして重なる転勤の打診、一体どうしたらいいのか…と頭を悩ませる方もいるのではないでしょうか。企業のいち人事でもある、”私”個人も配偶者の妊娠中に転勤を打診された一人でもあります。しかしながら、転勤自体は余程の事情がない限り、法的には断ることは出来ないものになります。こちらでは、妻の妊娠・出産時期と転勤の辞令が重なってしまいそう、重なってしまったなんて場合に出来ることを人事の視点でご紹介したいと思います。
そもそも転勤とは
そもそも”転勤”が意味する範囲も広いため、”そもそも転勤って?”ということで前提を共有したいと思います。
一般的に転勤とは同じ企業内で勤務地が変わることを言います。
はい。そうですね。しかし、この転勤の中身をみると色々な種類の転勤があります。ここで話をしていく前提のための説明も含めますが、ひとつ転勤を分けるとすると、それは
・転居を伴わない転勤
の二つです。
転居を伴わない転勤例:営業職種の人が、東京本社から横浜支社に異動。現住所から通勤の範囲内であり転居は発生しない。
ということです。
転勤制度の根源は日本型の採用スタイル、所謂メンバーシップ型の採用があると考えられます。欧米のジョブ型では職務内容や勤務地なども含め従事する業務が決められているのに対して、日本のメンバーシップ型は終身雇用を前提に、会社での育成や会社での人員配置等のためにジョブローテーションが一般的に行われています。そこで、転勤も発生する。ということですね。
そもそも転勤を命じることができる根拠とは
企業側にはその企業内において職種・勤務場所等を変更する権利があります。労働契約を結ぶ際に、その労働契約書自体や、または就業規則等でも定められています。転勤がある企業では、「業務の都合により、業務内容の変更や勤務地の変更を命じることがある」などという文言が必ずと言っていいほどあると考えます。逆に言うと、少なくともこの様なことが記されている・定められていない限り会社として転勤を命じることが出来ないと言うことになります。特別、業務について限定されていたり、勤務地について限定されていない限りは、企業側が従業員に対して転勤(配転)を命じることができます。
その上で、実際の転勤発令に際しては、以下の点がポイントになります。
・転勤命令の動機・目的の正当性(不当な動機・目的ではないか)
・労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるかどうか
の3点となります。
これらが担保されていれば企業の転勤命令は法的には有効となるでしょう。
妻の妊娠・出産を理由に転勤は断れるのか?
妻の妊娠・出産のみを理由に転勤を断ることは、
配偶者が妊娠している従業員を転勤させてはいけないという決まりはありません。ただ、前述の「そもそも転勤とは」でも言及した通り、大きく何か甘受すべき程度を超えていると判断されるような事情がある場合は断ることが出来ると考えます。
また、一時的に”断る”つまり、後述する”延期”をすることについては交渉しろがあるかもしれません。ただ、妻の妊娠・出産は”期間”が定まっており、いつかはその時期は過ぎるものであるため、場合によっては完全に断るということは難しいでしょう。
仮にこのタイミングでの転勤は企業側の配慮によって断れたとしても、数ヶ月後なのか1年後なのか2年後なのか…はたまた3年後なのかはわかりませんが、また将来的に転勤を命ぜられる可能性は十分にあるでしょう。
妻の妊娠・出産を理由に転勤は延期できるのか?
こちらはいち個人として私自身も延期が可能であった様に、
と考えます。追い風となる施策がどんどん出てきているのが最近でもあります。2022年4月1日から、男性の育児休業促進を目的とした、”男性の産休”とも言える制度、子供の誕生直後8週間以内に男性が最大4週間の休みがとれる制度が施行されます。育児休業をより取りやすく、男性の育児への参加をより強く推進していこう、というのが世の流れです。
もちろん、企業によるでしょうが、そのような世間の流れもあり、妊娠・出産・育児のこの過渡期における転勤日(異動日)について企業側に配慮を求めることは決して無茶な話ではなく、企業側はそのような従業員の事情に十分に耳を傾けてしっかりと配慮をする必要があると考えます。また、所謂、従業員を大切にする企業であればあるほど、転勤という異動事態の取り止めまではまだしも、転勤の時期の勘案はしてくれる可能性は高いと考えます。
そのため、妻の妊娠・出産を理由に転勤時期を延期することが出来る可能性は十分にあると考えます。
妻の妊娠・出産中に転勤を打診されたいち従業員・いち人事としての体験談
5月下旬が出産予定日で、6月1日付での転勤を打診されました。そもそもの運が良かったのは上司が女性でかつ理解があったこと。そして日頃から定期的に状況を共有していたこと。が良かったと考えます。
上司「もう君も4年たって、そろそろ次の仕事を会社として考えているのだけど…あなたも最近の1on1でも良く新しい仕事がしたいと言っていたし、私としてはチームから離れられるのは辛いけど…。あなたの異動を6月1日付けで考えています。」
私「ありがとうございます。そうですね。そういっていただけるとありがたいです。ただ、やはりもう4年も経ちますので、そろそろ、という気持ちは強いです。6月1日付ですか…それは…タイミング的には少し心配ですが。。。ちなみにどの様な内容なのでしょうか?」
上司「仕事の想定は○○で~~の仕事なのだけど、場所は△△県なのよね…どう?流石にないわよね。」
私「はい…流石に難しいです。転居が必要ない異動であれば多少ご迷惑はかけるかもしれませんが、大丈夫だったと思うのですが、流石にそのタイミングでの引越しが必要な異動となると…。」
上司「そうよね。いつ頃なら大丈夫そう?」
私「そうですね…妻とも相談して改めてお伝えしたいと思いますが、出産後2ヶ月程度後の8月1日付けであれば、最短でなんとか、と考えています。」
上司「わかったわ。掛け合ってみるね。」
数日後
上司「じゃあ、12月1日で。」
私「え!?そんな先でもいいんですか!?はい!わかりました!ご配慮いただきありがとうございます。」
と、この様な按配でした。
ただ、この後知るところにはなるのですが、転勤先のチームは半年間人が一人足りない状態で頑張って待っていてくれたのでした…。それを知った時は非常に申し訳ない気持ちになりましたが、それを当時の私にあえて伝えなかった上司は非常に出来た人だなと思いました。もし、知ってしまってたら、私自身気が気でなかったと考えます。
妻の妊娠・出産、転勤の打診・転勤を延期するには
前述の体験談等もベースに以下の通りご紹介します。
日頃からの上司とのオープンなコミュニケーション
出来ることの一つは、自分が異動対象者としてリストアップされる前からの先手先手を取った社内での活動です。当然、異動を発令する際にはその責任者が”誰”を異動させるか、誰に白羽の矢を立てるかを考えています。俎上にのってからでは時既に遅しということもありえるため、その俎上に乗らない様にする、これが大切なことです。
それには常日頃からの上司への自身の状況をインプットすることが大切です。1on1ミーティングの場や、評価面談の場、何気ない会話の場面で、オープンなコミュニケーションを図ることが必要です。
想定イメージ
本部長:○○支社で退職者が出て営業が減る。ついては、△△支社からひとり4月1日付で営業担当者を転勤させてほしい。
△△支社 部長:わかりました。検討します。(う~ん、Aさんは、そうだなぁ、Aさんは今奥さんが妊娠中と言っていたな…一旦候補から外して、Bさん、Cさんあたりにそれとなく状況聞いてみてBさんかCさんに決めよう)
△△支社 部長:わかりました。検討します。(うーん。。Aさん以外に適任はいないなぁ…ただ、4月1日は流石に難しいだろうな。奥さんが出産が3月頃と言っていたし…まずはAさんにも感触聞いてみて、その後異動日を調整出来ないか本部長にも掛け合ってみるか。)
なんて感じです。
日頃の業務への取り組み(辞められたら困る存在になる)
「人事異動が原因(きっかけ)で退職に至る。」そんなケースは非常に多くあります。実際、いち人事としても異動直後に退職をする従業員の姿を多く見てきています。そのため、そもそも企業として従業員の配置転換には一定程度の気を遣っているという側面もあります。
つまり、会社側の要求(配偶者の妊娠・出産タイミングでの転勤命令)が原因で、従業員(”あなた”)が転職(退職)に至るなんてことは避けたいと思っているハズです。そして、そう思われるためには日頃から業務へ誠実に取り組み、会社にとって辞めたら困る存在になる必要がある。ということです。もちろん、会社員ですからある程度”替え”がきくのも当然ではありますが、”あなた”という個人はやはり替えがききませんし、会社として、人が一人辞めた後人を一人新しく採用するのにも多大なる労力がかかるものでもあります。
そのため、日頃から業務にしっかりと取り組み会社にとって貴重な存在になる、大切に扱われる存在になるということもひとつのポイントと考えます。
転勤を断ることのリスク・デメリット
自身にとっては妻の妊娠・出産で転勤を断ることは止むを得ない事情であるや、正当である、と感じている方もおおいかもしれませんが、残念ながら企業側からするとそれは必ずしもそうとはなりません。そのため、転勤を断ることには様々なリスク・デメリットが存在します。
1 昇進・昇格が遠のく可能性
転勤の拒否は、会社が期待する役割を担ってくれない。ということでもあります。「○○に行って、~~~の仕事をしてほしい。」、この”~~~の仕事”が会社に置いて、従業員の育成・キャリア形成上重要と考えている業務経験かもしれません。このような場合、その機会を逃すことで昇進・昇格が遠のく可能性もあります。また、”転勤を断る”ということは、大層な言い方をするなれば社命に背くということでもあります、当然、社命に背いた従業員という見方になると、昇進・昇格が遠のくのも止むを得ないと言えるでしょう。
2 職場で肩身が狭くなる可能性
”あなた”が上手く断れたとしても、結局”あなた”ではない誰かが行く可能性があります。これを心配し出すと何も身動きが取れなくなってしまいますが、可能性としてあります。”あなた”がいけないから誰も行かなくて良い、というわけでは当然ないと考えます。会社としてその配置転換の必要性があるからこそ、人事異動を行おうとしているわけです。そうなると、結局、転勤先で期待することを担ってもらえる他の誰かに行ってもらう必要が発生します。
「”あなた”が転勤を拒否したから、他の○○さんが転勤することとなった」こんな事実がわかってしまった日には、もちろん事情によりますが、その程度によっては周囲から白い目で見られてしまう可能性もあります。
3 退職を促される可能性
転勤という業務命令を拒否する。それが一度ならず、二度、三度と恒常化してくると、その従業員(”あなた”)の存在が職場にとって企業秩序を守る上で、支障がでる存在と判断されてきます。他の人は転勤を会社の命に従っているのに、特定の従業員だけが従っていない。そうなると、これ以上、転勤を拒否する様であれば”あなた”の居場所はもうココにはない、と諭され、退職を勧奨される可能性も出てきます。
4 最悪、懲戒解雇の可能性
企業として正直ここまで大事(おおごと)にしたいと思っていないでしょうから、即座に「懲戒解雇」なんてことにはならないとは考えますが、可能性として前述の判例でもあった通り、最悪クビになる可能性も否めません。当然、転勤の必要性はその打診があった際に、従業員側にも説明がなされることになります。その上で、従業員としてそれを断ることは、業務命令の拒否に他なりません。そうなると、企業側としては正当な理由なくして業務命令を拒否したことに対して懲戒処分を行うことが出来ます。
転勤がどうしても嫌なら転勤がない企業へ就職するしかない
転勤がどうしても嫌な場合は、法的観点でそれを担保することが一番確実です。それは労働契約上勤務地が限定されている雇用形態にて働くこと、つまり、地域限定社員・エリア限定社員と言われる雇用形態です。また、転勤がない企業で働くこと、つまりこれは東京にしかオフィスがない等の拠点が限定される様な企業で働くことです。
これを実現する際は転職エージェントの活用が便利です。
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さいごに
妊娠した配偶者(妻)がいながら、突然の上司からの転勤の打診。そんなことがあった日には自身としては途方に暮れてしまいますよね…配偶者にも言いだしづらいし、かといって会社命令である以上は上司に面と向かって拒否もしづらい、出来ることはやはり、これもある意味仕事としてとらえて、”調整”をすることが大切です。つまり、転勤自体を拒否することは出来ずとも、転勤の時期を調整してもらうということです。もちろん、”断る”ことが出来るにこしたことはありませんので、上司へのしっかりとした事情の説明と思いの共有をすることは必要不可欠です。
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